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福岡高等裁判所宮崎支部 事件番号不詳〔3〕 判決

右の者等に対する法人税法違反被告事件について、昭和二四年一〇月六日鹿児島地方裁判所で言渡した判決に対し、被告人等より各控訴の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決をする。

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は全部被告人等の負担とする。

理由

被告人三名の弁護人栗脇盛吉の控訴趣意は、末尾に添えた控訴趣意書に記載したとおりである。

第一点について、

原判決によれば、被告会社の使用人である被告人内田輝二、同正留利満は被告会社の所得を僅少に申告して法人税を逋脱しようと共謀し、昭和二一年一二月一日に始まり翌二二年一一月三〇日に終つた同会社の事業年度の所得税額は百七十一万四千八百二十四円であつたのにその大部分を別口利益金として被告会社の帳簿に記載しない方法で秘匿し、申告期限数日後の昭和二三年二月二日頃、所轄鹿児島税務署に対し、右正規の帳簿のみによつた決算書に基き、被告会社の右事業年度分の所得額は僅かに十七万四千三百三十五円であると虚偽の確定申告をなして、法人税を逋脱したというのである。しかして『昭和二二年法律第二八号による改正の法人税法には、いわゆる申告納税の制度を採用し、第一義的に納税義務者をして自ら納税申告をさせると共に右納税申告に基いて法人税を納付させる立前をとつているのであるから、前記のような不正行為により虚偽の確定申告をすれば、その申告のときをもつて法人税法(昭和二三年法律第一〇七号による改正以前のもの、以下同じ。)第四八条第一項の逋脱罪が直ちに成立するものと解するのが相当である。従つて、右虚偽の申告後になされた更正処分は右犯罪の成立に何等の関係がなく、又一旦成立した右逋脱罪がその後における更正処分等によつて遡つてその違法性を失い刑事責任を免れるというようなことも到底考えられない。』なお所論は右更正処分は同法第二九条に基くものであるというのであるが、原審公判における証人田中忠雄の供述によると、同法第四八条第三項には昭和二三年法律第一〇七号による改正法と同じように更正処分も含まれるものと解釈して同条項によつて更正処分をなしたことがうかがわれるのである。縷述の所詮は要するに右と異なる見解に立脚して原判決を非難するに帰着するものであつて、採用しがたい。

第二点について

しかしながら、原判決に挙示した証拠を綜合すると、原判示事実殊に被告人内田、同正留両名において、法人税逋脱の意思で、故意に虚偽の確定申告をなしたことを優に認めることができ、記録を精査しても、所論のような事実の誤認があるとは思われない。そして右事実が法人税法第四八条第一項に該当することは勿論であるから、原審が同条項を適用して被告人等を処断したことも相当である。原判決には所論のような事実の誤認や罪とならない事実を有罪とした違法がないから、論旨は理由がない。

以上の理由であるから、刑事訴訟法第三九六条によつて、本件控訴を棄却し、同法第一八一条第一項によつて、当審における訴訟費用の全部を被告人等に負担させることゝする。

よつて主文のとおり判決をする。

検事 某 関与

控訴趣意書

法人税法違反

被告人 合名会社貴仙堂薬舗

右法定代理人清算人

堂園ノブ

同 内田輝二

同 正留利満

右者に対する頭書被告事件に付左の如く控訴趣意の陳述を為す。

第一点

原判決は法令の適用を誤り此為罪と為らざる事実に対し有罪判決を為したるものにして破棄を免れないものである。

(一) 法人税法第二十九条、第三十条に依れば所得金額の申告が為された場合に於ては申告した課税標準と政府の調査した課税標準とが異るときは政府は課税標準を更正し得べく(更正処分)所得金額の申告がなかつたときは政府はその調査したところに依り課税標準を決定する(決定処分)ことが出来る。

而して此の課税標準の更正又は決定の処分を為したるときは納税義務者に対しこれを通知して其の日より一箇月後を納期限として其の追徴税額(更正処分に依る不足税額又は決定処分に依る税額)を徴収すべきことを規定して居る(同法第三十三条)

即ち政府は法人所得に付調査を為し申告の有無に従い更正又は決定処分に依り課税標準を定め其の追徴税額に付ては特に其の処分通知の日より納期限を定めて徴収することが出来るから法人税法は課税標準の更正又は決定を予想して居ることは明らかである。

従て申告書記載の所得金額が更正処分に依り更正せられた事実に依りては直にこれを脱税なりと断定すべきものではなく政府は第三十三条に依り其の追徴税額を徴収するか或は告発に依り司法裁判を経て処罰及徴税するか必ず其の一を選択すべきものにして若し第二十九条の更正処分を為し第三十三条の追徴税額徴収処分を為したるときは特別の納期限を定めてこれを徴税し得るのみであつて更に告発に依り裁判を求むることは全然出来ないことは明白である。然り而して同法第四十八条第三項には法人税を免れた場合に於ては政府は直に課税標準を決定し其の税金を徴収することを定めて同法第二十九条、第三十条、第三十三条の更正処分又は決定処分と異りて特に納期限を定めず直に徴収すべきことを定めて居るのである。斯如申告者が其の課税標準を更正せられた事実自体に於ては法人税を免れた場合に該当せざるものと解すべきものなることも亦極めて瞭かである。

(二) 被告会社は公訴事実に指摘せられたる法人税法第三十三条に規定する追徴税額を完納したるを以て同法第四十八条の法人税を免れた場合に該当しないものである。

一 被告会社は昭和二十一年十二月一日より昭和二十二年十一月三十日迄の所得に付昭和二十四年一月十一日調査を受け鹿児島税務署長は同年一月二十四日同法第二十九条に依る更正処分を以て課税標準を更正し同事業年度追徴税額を金五百二十二万三千七百二十八円也とし同法第三十三条に則り其納期限を同年二月二十四日と定めたのである(納税告知書並に法人の課税標準更正通知書参照)

仍て被告会社は直に一部納税をしたけれ共税務署長は三月十日被告会社の財産に対し滞納差押を為したのである(差押調書参照)

其後被告会社は数回に亘り苦心調達の上検察官の訴因変更額である税額百万千百二十四円四十銭之れに対する加算税十九万五千六百九十五円追徴税五十万五百円合計百六十九万七千五百十九円四十銭を完納したのである(納税領収証参照)

右に依り被告会社の法人税を逋脱しなかつたものであることは明確である。

二 然るに鹿児島税務署長が被告会社に対し前項の更正処分を為した後に熊本国税局税務官吏に於て本件告発を為し検察庁に於ては之に基き本件公訴を提起したのであるが既に述べた通り税務署長が第二十九条第三十三条の規定に依り特に納期限を定めて適法なる更正及追徴処分を為した以上は更に第四十八条の規定に依り告発は勿論公訴提起を為すことは出来ない筋合である、蓋し所得金額及び納税金額が既に確定せられたる以上更に裁判所に於て其の脱税した事実並に其の金額を確定し同時に政府が「免れた金額」に基き課税標準を決定し直ちに徴収する為第四十八条の適用を為し得る余地は法律上全然存在しないからである。

又仮りに被告会社が第四十八条所定の犯則者であつたとしても前示税法上の更正及追徴の行政処分に依りて右犯則責任は法律上当然中断解消せられたものであるから被告会社の為したる審査請求に対する審査決定又は前示更正処分に対する行政裁判の確定に依りて追徴税額は確立するものであるが此結果若し前項納税額が不足しても之は単なる滞納者と云ふに止まり同法第四十八条の脱税者として処罰すべき対象とは為らないものである。

三 法人税法第四十八条には「法人税を免れた場合」に処罰が出来ることを明かにして居る之れに対し物品税法第十八条には「物品税を逋脱し又は逋脱せんとしたる者」と規定し又取引高税法第四十一条第一項第三号には取引高税を免かれ又は免かれようとした者」と規定して免かれんとしたる者をも処罰し得ることを明にして居る、然るに被告会社は其の申告時に於ては不実があり法人税を免れようとした者に該当したかも知れないが、税務署長の第二十九条第三十三条の更正及追徴処分に依り結局法人税を免れた者の適格を衷い遂に違法性を阻却することゝなる而も被告会社は検察官の指摘したる脱漏税額を完納したるを以て所謂免れた場合に該当せざるのみならず第四十八条の法意及文理解釈上申告納税者に対する更正及追徴処分があつたときは全然告発も公訴提起も出来ないものであることを重ねて強調するものである。

(三) 若し被告会社の本件行為が法人税法第四十八条第一項に該当するとなすならば其の脱税した税額は課税標準の更正処分に依つては徴収することは出来ないのである何となれば法人税法に於ては納税義務者から其の申告に係る額税以外に税金を徴収する場合は法人税の課税標準につき更正処分をなすのでなければこれが出来ないことは前にも陳べた通りであるが同法第四十八条第三項には「第一項の場合に於ては政府は直ちにその課税標準を決定しその税金を徴収する」とあつて脱税した税金を更正処分に依つて徴収する場合は規定されて居ないからであるこのことは右法条が昭和二十三年法律第百七号所得税法一部改正等の法律で「決定」を「更正又は決定」と改められたる事実に徴しても明かである。従つて本件行為は旧法施行時に於てなされたものであるから税務署長が独自の権限裁量に依りて更正処分を為したる以上は同一所得金額に対しては財務当局に於て徴税の方法たる告発を為すことは出来ないのである。

(四) 法人税法第二十九条及第三十条に依り政府が課税標準につき更正又は決定処分をなした場合はこれに依る追徴税額に対しては同法第四十二条第二項及び第四十三条の規定で加算税及び最高追徴税額(第三十三条)の五割に相当する追徴税を徴収することができるのである。この加算税及び追徴税は所謂行政罰であることは謂うまでもないのである。然るに政府が申告額に対し更正処分となして前敍の行政罰を受けたる同一行為に対し更に脱税犯なりとして刑事上の責任(四十八条第三項に依り税金も更に徴収される)を負加せんとするは同一行為に対し二重の刑罰を要求することとなり刑事法の精神に照しても明かに適法性を欠くものと謂ふべきである。

要するに申告したる課税標準と政府の調査した課税標準とが異るときは政府は法人税法第二十九条の規定に依りて更正処分を為し追徴税額を徴収するか又は国税犯則取締法第十二条の二の規定に基く犯則処分を為すか其の一を選ぶべきものにして既に更正処分を為したる以上更に犯則処分を為すこと能はざるものなりと確信するものである。

(五) 原判決は罪とならざる事実に対し法人税法の適用を誤りたるものなりと断すべきものなるのみならず根本的に司法権の限界に関し重大なる過誤を犯したるものである。

即ち本件に於て鹿児島税務署長は昭和二十四年一月二十四日更正処分を為し其の追徴税額に付法定の期限を定めて納付を命じたるものなるところ此同一事実に基き熊本国税局収税官吏は同月二十五日国税犯則取締法に基き告発を為したるものにして鹿児島税務署長は前示更正処分に基き同年三月八日被告会社に対し財産差押執行を為し飽くまでも単なる納税義務者に対する滞納処分手続を進行したるものである。

而して被告会社は昭和二十四年二月二十一日熊本国税局長に対し前示更正処分に対する審査請求を提起し適正なる所得金額の確定を期待し居るものにして即ち被告会社の所得金額及其の脱漏額の有無、其の金額は審査に依る行政処分の完結に依りて始めて確定し得るものにして現に審査未了の本件に於ては猶更正処分に於ける所得金額は勿論其の脱漏額の有無及其の金額は理論上不確定の事実にして本件の告発書に記載せられたるは、被告会社の所得金額及其の脱洩額と公訴提起当時の同金額と訴因変更に依る同金額とが巨額の変改を加へられたる一事実に徴しても被告会社の所得金額及其の脱洩額は、現在に於ても猶確不動のものにあらざることが顕かである。

政府(鹿児島税務署長)が単なる国税滞納者と認めて之に対し前示の如き行政処分を以て処理するを適正なりと認めて行政権を先行運営せしめ居るとき、他の国家機関(熊本国税局収税官吏)の告発に依り鹿児島地方検察庁に於て公訴を提起したるは違法にして若し、之を是認するときは、前示の如く全然不確なる浮動の事実に対し審判し、国家最高の司法処分を為すの矛盾を惹起するのである。

原判決認定の所得金額及脱洩額は前述の如く、確定不動のものにあらず単に訴訟技術的処理に出でたるものにして真実は同金額よりも被告会社の為、利益なる事実を期待し得るものなることは原審公判の進行過程を顧るときは、容易に窺い得るところである。

刑事裁判は、確固不動の事実を確定し、之に基き刑事責任の有無を判定し進んで量刑することを大原則とするものなるところ原判決が公訴棄却の英断を為さゞりしは、司法権と行政権との限界を誤りたるものなりと強調するものにして原判決は先づ此の点に於て破棄を免れざるものである。

第二点

原判決は事実の認定を誤り其の誤認は、判決に重大影響を及ぼすべきものあるを以て破棄すべきものである。

法人税法上納税義務を懈怠したることが直ちに脱税犯罪を構成するものにはあらずして脱税犯罪の成立には客観的には納税義務者に於て詐偽其の他の不正行為がありて、その行為と脱税との間に法律上相当に因果関係が存在すると同時に主観的に脱税の犯意を要するものなること当然にして原判決は此の点に付、事実の認定を誤りたるものにして原審公判に於ける被告人等の供述並びに証人荒木武雄の証言に依れば被告会社の為したる本件所得申告は諸帳簿の記載が完備せざりし為、従来の慣行に従ひ且つ他つ法人と同様に一応概算申告を為す程度の意志を以て為されたるものにして右申告後、鹿児島税務署長に対し、其の事情を具申して、調査の上適正なる更正処分方の申出を為したるに対し、同税務署長に於ても之に応し、係員に於て現に調査を為し、所得額を確定することゝなり居りたるものにして、被告会社の為したる所得申告が仮りに実際所得額より内輪の金額なりしとするも被告会社は敢て申告金額を強調して脱税する意思もなく、即ち脱税の目的を以て為されたる詐偽其の他の不正の行為に依り法人税を免れたるものにあらずと認むべき、客観的、主観的条件を有するものなるのみならず進んで昭和二十一、二年当時に於ける社会的、経済的混乱、戦災事業の復興経営の困難なりし実態、法人税申告課税の慣行、予算申告納税制度実施の時期(昭和二十二年四月一日)収税強化に関するマッカーサー元帥の書簡の発表(昭和二十三年十二月九日)及経済九原則の公表(昭和二十三年十二月十八日)等に依る徴税強化、税制機構の不合理等諸般の情状を綜合するときは被告会社の判示所為は脱税の犯意に出てたるものにあらずと認むべきものなるに拘らず原判決は其の勇断を為さざりしは犯罪の成否を決する根本事実に付其の認定を誤りたるものにして此事実は原判決引用の全証拠を綜合して認め得るところである。

敍上の如く原判決は罪とならざる事実に付有罪判決を為したる違法ありて到底破棄を免れざるものである。

右の通り陳述する。

昭和二十五年一月十六日

右弁護人 栗脇盛吉

福岡高等裁判所宮崎支部 御中

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